波としての電子:ド・ブロイ波長
1924年、ド・ブロイは、運動するあらゆる粒子は波長 λ = h/(mv) をもつと提案しました。h はプランク定数、m は質量、v は速さです。日常的な物体では、波長は小さすぎて気づけません。40.0 m/s で飛ぶ 0.145 kg の野球のボールでは λ = 1.14 × 10⁻³⁴ m です。質量が 9.109 × 10⁻³¹ kg(NIST CODATA)の電子では、波長は原子の大きさと同程度になります。
例題1。2.188 × 10⁶ m/s で動く電子の波長は λ = h/(mv) です。CODATA の値 h = 6.62607 × 10⁻³⁴ J·s と m = 9.10938 × 10⁻³¹ kg を使うと、λ = (6.62607 × 10⁻³⁴)/[(9.10938 × 10⁻³¹)(2.188 × 10⁶)] = 3.324 × 10⁻¹⁰ m、すなわち 0.3324 nm です。この速さは、ボーアの模型が水素の最も内側の軌道にある電子に割り当てる速さで、その軌道の半径はボーア半径 a₀ = 5.29177 × 10⁻¹¹ m(NIST CODATA)です。軌道の円周は 2πa₀ = 3.325 × 10⁻¹⁰ m なので、電子の波長がちょうど一つ分、その周りに収まり、一致の程度は0.02%よりよくなります。エネルギー準位が量子化されるのは、電子の波が自分自身を打ち消さずにその空間に収まらなければならないからで、ギターの弦が特定の振動数でしか振動できないのとよく似ています。
不確定性と、定まった軌道の終わり
ハイゼンベルクの不確定性原理は、位置と運動量を同時にどれだけ正確に知りうるかに限界を設けます。Δx·Δp ≥ ħ/2 で、ħ = h/2π = 1.0546 × 10⁻³⁴ J·s です。
例題2。電子を、原子とほぼ同じ大きさの幅 1.0 × 10⁻¹⁰ m の領域に閉じ込めます。すると Δp ≥ (1.0546 × 10⁻³⁴ J·s)/(2 × 1.0 × 10⁻¹⁰ m) = 5.3 × 10⁻²⁵ kg·m/s で、Δv = Δp/m ≥ 5.8 × 10⁵ m/s です。速さの不確かさが速さそのもののかなりの割合を占めるので、惑星の軌道のような定まった軌跡は、原子内の電子については意味をもちません。
量子力学は、軌跡を波動関数 ψ に置き換えます。その2乗 ψ² は確率密度で、小さな領域の体積をかけると、その領域で電子が見いだされる確率が得られます。軌道(オービタル)とは電子1個の波動関数のことで、おなじみの軌道の図は、その確率の大部分、多くの場合90%を囲む面です。
n、l、mₗ、mₛ の許される値
水素原子について波動方程式を解くと、三つの量子数が得られ、それぞれが一つ前の量子数によって制約されます。四つめの量子数は電子のスピンを表します。問題の要点は、すべてこの制約にあります。
- 主量子数 n = 1, 2, 3, …。殻を決め、水素ではエネルギーも決めます。n が大きいほど、軌道は大きく、エネルギーは高くなります。
- 方位量子数(角運動量量子数)l = 0, 1, …, n − 1。副殻と形を決めます。l = 0, 1, 2, 3 が s、p、d、f です。
- 磁気量子数 mₗ = −l, …, 0, …, +l で、2l + 1 個の値をとります。空間での軌道の向きを決めます。
- スピン量子数 mₛ = +½ または −½。ほかの三つには依存しません。
例題:六つの量子数の組を判定する
組 (n, l, mₗ, mₛ) を判定するには、各量子数を一つ前の量子数と順に照らし合わせます。最初に違反が見つかったところで止めます。
(3, 3, 0, +½) は許されません。l は最大で n − 1 = 2 でなければなりません。(4, 2, −3, −½) は許されません。l = 2 では、mₗ は −2 から +2 までしかとれません。(3, 2, 1, 0) は許されません。mₛ は +½ か −½ でなければならず、0 にはなりません。(2, 1, −1, −½) は許され、2p 軌道の電子を表します。(5, 0, 0, +½) は許され、5s 電子を表します。(4, 3, −3, +½) は許され、4f 電子を表します。
許される組から軌道の名前をつけるには、n のあとに l に対応する文字を書きます。mₗ の値は副殻の中の一つの軌道を選びますが、この表記では名前を変えません。
制約のもとで軌道と電子を数える
許される l の値を書き出し、次にそれぞれの mₗ の値を書き出し、そのあとで初めて制約を当てはめれば、数え上げの問題は決まった作業になります。各軌道、つまり許される (n, l, mₗ) の組み合わせ一つずつには、スピンが互いに異なる電子が2個入ります。
主量子数 n の殻には、n² 個の軌道と 2n² 個の電子があります。n = 4 では l は 0、1、2、3 をとりうるので、軌道は 1 + 3 + 5 + 7 = 16 個、電子は32個です。
例題3。原子内で n = 3 かつ mₗ = +1 をもちうる電子はいくつでしょうか。n = 3 の l の値は 0、1、2 です。mₗ = +1 が可能なのは l ≥ 1 のときだけなので、そのような軌道は 3p に一つ、3d に一つあり、軌道は二つ、電子は4個です。n = 5 かつ mₛ = +½ をもちうる電子はいくつでしょうか。殻5には 5² = 25 個の軌道があり、それぞれに +½ の電子が1個入るので、25個です。n = 4 かつ l = 2 をもちうる電子はいくつでしょうか。これは 4d 副殻なので、軌道が5個、電子が10個です。
軌道の形と節の数え方
節とは、ψ、したがって電子が見いだされる確率がゼロになる場所です。軌道には全部で n − 1 個の節があります。そのうち l 個は角度節で、原子核を通る平面や円錐です。残りの n − l − 1 個は動径節で、一定の距離にある球面です。動径節の規則は OpenStax Chemistry 2e(6.3節)にあります。
s 軌道(l = 0)は球形で角度節をもたないので、2s 軌道には動径節が1個、3s 軌道には2個あります。p 軌道(l = 1)は、原子核をはさんで反対側にある二つのローブと、その間にある1枚の節面をもちます。三つの p 軌道は、向いている軸によって pₓ、p_y、p_z と名づけられます。d 軌道(l = 2)は角度節を2個もちます。そのうち四つは四つのローブをもち、五つめの d_z² は z 軸に沿った二つのローブと、中央を取り巻く環をもちます。
例題4。3p 軌道には、動径節が 3 − 1 − 1 = 1 個と、角度節が1個あります。4d 軌道には、動径節が1個と角度節が2個で、合計3個あります。3d 軌道には動径節がなく、6s 軌道には5個あります。
同じ殻の軌道でエネルギーが異なるとき
水素ではエネルギーは n だけで決まるので、3s、3p、3d は同じエネルギーです。電子を2個以上もつ原子では、ほかの電子が原子核を不均一に遮へいします。s 電子は、同じ殻の p 電子や d 電子より原子核の近くまで入り込み、核電荷をより多く感じて、エネルギーが低くなります。その結果、殻の中で s < p < d < f の分裂が生じ、これが電子配置のガイドで扱う充填順序を決めます。
三つの 2p 軌道のように同じ副殻の軌道は、孤立した原子では等しいエネルギーのままです。これらは縮退しているといいます。分子や結晶の中で周りにある原子は、この縮退を解くことがあります。
確認すべき量子数の間違い
ほぼすべての誤りは、書き出しの段階を飛ばすことから生じます。迷ったら、数える前に許される値をすべて書き出しましょう。
- l を n と等しくする。許される最大の l は n − 1 なので、1p 軌道や 2d 軌道は存在しません。
- mₗ の値を −l から +l までではなく 0 から l まで数え、軌道を少なく数える。
- 電子の数を問われているのに軌道を数える、またはその逆。各軌道には電子が2個入ります。
- mₛ に 0 や 1 の値を与える。スピンは +½ か −½ だけです。
- n − l − 1 を節の総数として使う。この式が数えるのは動径節だけで、総数は n − 1 です。
- 90%の境界面を、はっきりした縁として扱う。電子密度はなめらかに薄れていき、鋭い境界はありません。
制限事項と適切な利用方法
- ここでの量子数と節の規則は、電子が1個の水素原子から導かれたものです。多電子原子でも軌道のラベルとしてはよく機能しますが、そこでの軌道のエネルギーと形は近似です。
- 軌道の図は、化学で標準的な pₓ や p_y のような実数値の組み合わせを示しています。物理学の教科書では、mₗ でラベルづけした複素数の形がよく使われ、見た目が異なります。
- このガイドでは、シュレーディンガー方程式を解くことや、重い元素で重要になる相対論的効果は扱いません。
- ド・ブロイの例でのボーア軌道との比較は歴史的な説明のためのもので、電子が実際にどう動くかを記述するものではありません。