変化は Q か K を変え、系は平衡を回復する
平衡では、反応商 Q は平衡定数 K に等しくなっています。しばしば「ストレス」と呼ばれる乱れは、二つのどちらかの仕方でこの等式を崩します。化学種を加えたり除いたり、気体混合物の体積を変えたりすると、K は同じままで Q が変わります。温度を変えると、K そのものが変わります。どちらの場合も、系はその後、Q が再び K に等しくなるまで反応します。
Q が K より小さくなれば、反応は正の向き、つまり生成物の側へ進みます。Q が K より大きくなれば、逆の向きに進みます。暗記した標語より、このように考えるほうが確実です。移動がまったく起こらない場合もわかるからです。
「部分的に」という言葉が重要です。系が変化を完全に元に戻すことはありません。反応物を加えると、新しい平衡でのその濃度は、加える前よりもやはり高くなります。
化学種を加える、または除く
反応物を加えるか生成物を除くと、Q は K より小さくなるので、反応は生成物の側へ移動します。生成物を加えるか反応物を除くと、Q は K より大きくなるので、反応は反応物の側へ移動します。工業や実験室のプロセスでは、これがつねに利用されています。揮発性の生成物を留去したり、気体を逃がしたり、生成物を沈殿させたりすると、Q が K より小さく保たれ、K だけから考えられるよりも反応がさらに進みます。
純粋な固体や純粋な液体をさらに加えても、平衡は移動しません。それらの物質は Q に現れないので、Q は変わりません。CaO(s) と CO₂(g) と平衡にある密閉容器に CaCO₃(s) をさらに加えても、CO₂ の圧力は変わりません。
例題:ヨウ化水素の平衡に水素を追加する
OpenStax の13.3節は、400 °C での H₂(g) + I₂(g) ⇌ 2 HI(g) について Kc = 50.0 としています。その温度の平衡混合物が [H₂] = [I₂] = 0.0150 mol/L だとします。すると [HI] = √(50.0 × 0.0150 × 0.0150) = 0.106 mol/L です。
ここで H₂ を注入し、何も反応しないうちに [H₂] が 0.0450 mol/L に跳ね上がったとします。Q = (0.106)² / (0.0450 × 0.0150) = 16.7。これは 50.0 より小さいので、反応は正の向きに移動し、加えた H₂ の一部を使います。
どれだけ移動するかを求めるため、H₂ が x mol/L 反応するとします。すると [H₂] = 0.0450 − x、[I₂] = 0.0150 − x、[HI] = 0.106 + 2x です。(0.106 + 2x)² / [(0.0450 − x)(0.0150 − x)] = 50.0 とおき、途中の値を丸めずに二次方程式を解くと、x = 0.00728 が得られます。I₂ はゼロより下がれないので、物理的に妥当な解は 0.0150 より小さいほうです。新しい平衡は [H₂] = 0.0377、[I₂] = 0.00772、[HI] = 0.121 mol/L です。
結果を原理に照らして読みます。系は加えた水素の約4分の1を消費したので、[H₂] は 0.0377 mol/L で落ち着き、元の 0.0150 よりまだかなり高くなっています。一方、ヨウ素の約半分が HI に変わりました。安価な反応物を加えて高価な反応物を使い切るのは、収率を上げる標準的な方法です。
気体混合物を圧縮する、または膨張させる
気体混合物の体積を小さくすると、すべての濃度が同じ倍率で上がります。それが Q を変えるかどうかは、気体の生成物の物質量から気体の反応物の物質量を引いた Δn によって決まります。Δn が負なら、圧縮によって Q が下がり、反応は気体分子の少ない側へ移動します。Δn が正なら、圧縮によって Q が上がり、反応は反応物の側、つまりやはり気体分子の少ない側へ移動します。H₂ + I₂ ⇌ 2 HI のように Δn がゼロなら、圧縮しても Q は変わらず、移動は起こりません。
体積を一定にしたまま、アルゴンのような反応しない気体を加えて全圧を上げても、何も変わりません。反応する気体の分圧と濃度は同じままなので、Q は K に等しいままです。圧力を一定にして不活性気体を加える場合は違います。容器が膨張しなければならず、体積を大きくするのと同じ効果になります。
例題:NO₂–N₂O₄ 混合物の体積を半分にする
25 °C での N₂O₄(g) ⇌ 2 NO₂(g) について、OpenStax の13.2節は [N₂O₄] = 0.042 mol/L、[NO₂] = 0.016 mol/L の平衡混合物を示しています。これらから Kc = (0.016)²/0.042 = 6.1 × 10⁻³ が得られます。
温度を一定にして体積を半分にします。どちらの濃度も2倍になり、[N₂O₄] = 0.084、[NO₂] = 0.032 mol/L になります。Q = (0.032)²/0.084 = 1.22 × 10⁻² で、NO₂ の項が2乗されているので、ちょうど Kc の2倍です。Q > K なので、系は気体が2モルではなく1モルの側である N₂O₄ の側へ移動します。
N₂O₄ が y mol/L できるとします。(0.032 − 2y)²/(0.084 + y) = 6.1 × 10⁻³ を解くと y = 0.0044 なので、新しい平衡は、データに合わせて有効数字2桁で [NO₂] = 0.023 mol/L、[N₂O₄] = 0.088 mol/L です。褐色の NO₂ は圧縮前より濃い(0.023 対 0.016 mol/L)ので、気体の色は濃く見えますが、NO₂ に含まれる窒素の割合は、以前の16パーセントに対して12パーセントと小さくなっています。
温度は K そのものを動かす
よくある変化の中で K の値を変えるのは、温度だけです。吸熱反応(ΔH > 0)では、温度が上がると K が大きくなるので、加熱すると平衡は生成物の側へ移動します。発熱反応(ΔH < 0)では、温度が上がると K が小さくなるので、加熱すると平衡は反応物の側へ移動します。覚え方として、吸熱反応では熱を反応物として、発熱反応では生成物として扱うと便利です。
OpenStax の13.3節は、N₂O₄(g) ⇌ 2 NO₂(g) について ΔH = +57.20 kJ としているので、混合物を温めると褐色が濃くなります。変化の大きさは、ファントホッフの式 ln(K₂/K₁) = −(ΔH°/R)(1/T₂ − 1/T₁) で見積もれます。これは、ΔH° と ΔS° がほぼ一定であれば、ΔG° = −RT ln K と ΔG° = ΔH° − TΔS° から導かれます。
例題。25 °C(298.15 K)から 50 °C(323.15 K)までで、ln(K₂/K₁) = −(57 200 J/mol ÷ 8.314 J mol⁻¹ K⁻¹)(1/323.15 − 1/298.15) = 1.785 なので、K₂/K₁ = 6.0 です。25 °C での Kp = Kc × RT = (6.1 × 10⁻³)(0.08206 × 298.15) = 0.15(Δn = 1、圧力は atm)から出発すると、50 °C での Kp はおよそ 0.9 です。25度の上昇で、平衡定数は約6倍になります。
触媒は平衡を移動させません。正反応と逆反応の活性化エネルギーを等しく下げるので、平衡には早く達しますが、K と平衡組成は変わりません。
ハーバー–ボッシュ法によるアンモニア:収率と速さの釣り合い
アンモニアの工業的な合成 N₂(g) + 3 H₂(g) ⇌ 2 NH₃(g) は、この原理が実際の選択をどう導くかを示しています。OpenStax の13.3節は ΔH = −92.2 kJ としています。反応は発熱なので、温度が低いほど K が大きくなり、平衡でのアンモニアが多くなります。気体4モルが2モルになるので、高い圧力もアンモニアに有利です。
難しいのは速さです。低温では、反応は遅すぎて役に立ちません。OpenStax は、その妥協策を説明しています。約150〜250 atm の圧力、速度を実用的に保つための触媒を使った 400〜500 °C の温度、そして Q が K より小さく保たれるように混合物からアンモニアを連続的に取り除くことです。温度は K が小さくなる代償を払って速度のために選ばれ、ほかの条件でできるだけ多くの収率を取り戻しています。
ルシャトリエの原理による予測が間違うところ
予測に自信がもてないときは、Q を書き、問題の量を変え、新しい Q を K と比べましょう。この確認で、下に挙げるほぼすべての場合に決着がつきます。
- 濃度や体積が変わると K が変わるという。K を変えるのは温度だけです。
- H₂ + I₂ ⇌ 2 HI のように Δn = 0 の反応を圧縮したあとに、移動を予測する。
- 体積一定で不活性気体を加えたあとに、移動を予測する。
- 純粋な固体や液体をさらに加えたあとに、移動を予測する。
- 触媒が平衡での収率を増やすと主張する。触媒は平衡への接近を速めるだけです。
- 系が変化を完全に打ち消すと思い込む。加えた反応物は、元の濃度より高いところで落ち着きます。
- 圧力の変化がどう作用するかを判断するときに、気体の物質量だけでなく、すべての物質量を数える。
制限事項と適切な利用方法
- この原理が予測するのは移動の向きで、その大きさではありません。定量的な答えには、例題のように Q、K、平衡の計算が必要です。
- ファントホッフの式による見積もりは、その温度範囲で ΔH° が変わらないと仮定しており、これが妥当なのは範囲がそれほど広くない場合だけです。
- 濃度と分圧を活量の代わりに使っており、これがよい近似になるのは、希薄溶液と、圧力がほどほどの気体の場合だけです。
- 高い圧力では気体は理想的にふるまわず、濃度や分圧だけに基づく予測は近似になります。