ICE表の3行が記録するもの
ICE は Initial(初期)、Change(変化)、Equilibrium(平衡)の頭文字です。係数を合わせた反応式を一番上に書き、各化学種にそれぞれの列を割り当てます。初期の行には、反応が移動する前の濃度(または分圧)を書きます。変化の行には、それぞれがどれだけ増えるか減るかを書きます。平衡の行は、最初の2行の和です。
化学が現れるのは変化の行です。どの欄も一つの未知数 x の倍数で、その倍数は係数を合わせた反応式の係数です。2 SO₂(g) + O₂(g) ⇌ 2 SO₃(g) が正の向きに進むとき、変化は −2x、−x、+2x です。反応が正の向きに進むとき反応物は減り、生成物は増えます。逆の向きに進むときは符号が反転します。
Kc にはモル濃度を、Kp には分圧を使います。純粋な固体と純粋な液体は平衡定数の式に現れないので、表からも除きます。初期の行を埋める前に、物質量は容器の体積で割って濃度に換算しておきます。
Q で変化の向きを選ぶ
符号を割り当てる前に、反応がどちらに進まなければならないかを決めます。K の式と同じ形を使って、初期値から反応商 Q を計算します。Q が K より小さければ、生成物が少なすぎるので、反応は正の向きに進みます。Q が K より大きければ、逆の向きに進みます。Q が K に等しければ、混合物はすでに平衡にあり、何も変わりません。
生成物が最初ゼロなら、Q はゼロで、反応は必ず正の向きに進むので、計算を省けます。すべての化学種が存在するときは、Q を計算します。たとえば、Kc = 37.0(次の節で求めます)の三酸化硫黄の反応で、[SO₂] = 0.100 M、[O₂] = 0.050 M、[SO₃] = 0.500 M の混合物を考えます。Q = (0.500)² / ((0.100)² × 0.050) = 500。Q は K より大きいので、SO₃ は比が 37.0 に下がるまで分解します。
例題:一つの測定濃度から K を求める
未知数が K そのものであることもあります。容器が [SO₂] = 0.400 M、[O₂] = 0.200 M で SO₃ なしから始まり、平衡で [SO₃] が 0.250 M と測定されたとします。これらの値は、方法を示すためにこのガイド用につくったもので、文献のデータではありません。
SO₃ は 0 から 0.250 M になったので、2x = 0.250、x = 0.125 M です。ほかの変化はすべて係数から決まります。SO₂ は 2x = 0.250 M 減って 0.150 M に、O₂ は x = 0.125 M 減って 0.075 M になります。すると Kc = [SO₃]² / ([SO₂]²[O₂]) = (0.250)² / ((0.150)² × 0.075) = 37.0 です。一つの測定濃度と化学量論だけで、三つすべてが決まりました。
例題:方程式が完全平方になる場合
H₂(g) + I₂(g) ⇌ 2 HI(g) について、OpenStax Chemistry 2e の13.4節がその例題の条件でこの反応に使っている値 Kc = 50.5 を使います。[H₂] = [I₂] = 0.500 M、HI なしから始めます。Q はゼロなので、反応は正の向きに進みます。表から、平衡値は各反応物が 0.500 − x、HI が 2x です。
式は 50.5 = (2x)² / (0.500 − x)² です。両辺が完全平方なので、展開せずに平方根をとります。7.106 = 2x / (0.500 − x)。変形すると x = 0.500 × 7.106 / (2 + 7.106) = 0.390 M です。平衡では [H₂] = [I₂] = 0.110 M、[HI] = 0.780 M です。確認:(0.780)² / (0.110)² = 50.3 で、濃度の丸めの範囲内で 50.5 と一致します。
平方根の近道が使えるのは、式が完全平方のときだけで、ここでは二つの反応物の初めの量が等しいことが必要です。量が等しくなければ、二次方程式を解かなければなりません。
例題:二次方程式をきちんと解く
PCl₅(g) ⇌ PCl₃(g) + Cl₂(g) について、OpenStax の13.4節は Kc = 0.0211 を使っています。[PCl₅] = 0.400 M、[Cl₂] = 0.100 M で、PCl₃ はなしから始めます。Q はゼロなので、反応は正の向きに進みます。平衡値は 0.400 − x、x、0.100 + x です。
代入します。0.0211 = x(0.100 + x) / (0.400 − x)。展開して項を整理すると x² + 0.1211x − 0.00844 = 0 です。解の公式から x = 0.0495 または x = −0.171 が得られます。負の解は [PCl₃] を負にしてしまうので捨てます。平衡では [PCl₅] = 0.351 M、[PCl₃] = 0.0495 M、[Cl₂] = 0.150 M です。代入し直すと 0.0211 になるので、答えは確かめられました。
最初から存在した Cl₂ が反応を抑えたことに注目してください。0.400 M の PCl₅ だけから始めると、同じ K で x = 0.0819 M となるので、ルシャトリエの原理が予測するとおり、加えた生成物が分解の程度を小さくしたのです。
x が小さいとき:近似と5パーセントの確認
K が小さく、初めの濃度が小さくないときは、反応はほとんど進まず、0.0400 − x はほぼ正確に 0.0400 です。これらの項から x を落とすと、二次方程式が1段階の計算になります。この近似が認められるのは、x が、それを引いた濃度の5パーセント未満のときです。
例題。N₂(g) + O₂(g) ⇌ 2 NO(g) について、OpenStax の13.4節は 2000 °C で Kc = 4.1 × 10⁻⁴ としています。[N₂] = 0.0400 M、[O₂] = 0.0100 M から始めます。すると 4.1 × 10⁻⁴ = (2x)² / ((0.0400 − x)(0.0100 − x)) です。近似します。4x² = 4.1 × 10⁻⁴ × 0.0400 × 0.0100 なので、x = 2.0 × 10⁻⁴ M、[NO] = 2x = 4.0 × 10⁻⁴ M です。小さいほうの初めの値と比べて確認します。2.0 × 10⁻⁴ / 0.0100 = 2 パーセントで、5パーセント未満です。厳密に二次方程式を解いても、有効数字2桁で同じ [NO] が得られます。
K が濃度に比べて小さくないときは、近似は成り立ちません。Kc = 0.0211 で 0.400 M の PCl₅ だけの場合、x が小さいと仮定すると x = 0.092 M となり、これは 0.400 の23パーセントです。厳密な答えは 0.0819 M なので、近道では約12パーセント高すぎることになります。必ず確認を行い、決して思い込まないでください。
分圧と逆反応
ICE表は、分圧と Kp でも同じように使えます。気体の物質量が変化しない反応では、Kp は Kc に等しくなります。両辺に気体が2モルずつあるヨウ化水素の平衡がそうです。
例題。純粋な HI を容器に 2.00 atm で入れ、分解させます。2 HI(g) ⇌ H₂(g) + I₂(g)。これは上の反応の逆なので、その定数は 1/50.5 = 0.0198 です。変化は HI が −2x、各生成物が +x です。すると 0.0198 = x² / (2.00 − 2x)² です。平方根をとると 0.1407 = x / (2.00 − 2x) で、x = 0.220 atm が得られます。平衡では P(H₂) = P(I₂) = 0.220 atm、P(HI) = 1.56 atm です。
ICE表のうっかりミスと、その見つけ方
最後の確認でほぼすべての誤りに気づけます。平衡値を K の式に代入し直し、データの精度の範囲で K が再現されることを確かめましょう。
- 容器が 1 L でないのに、表に物質量を入れる。先に体積で割りましょう。
- 変化の行ですべての係数を1とする。たとえば SO₂ について −2x ではなく −x とする。
- K の式の項を、その係数に合わせて2乗や3乗するのを忘れる。
- 最初から生成物が存在するのに、反応が正の向きに進むと思い込む。Q を計算しましょう。
- どれかの濃度を負にしたり、物理的にありえないほど大きくしたりする解を残す。
- x が初めの値の5パーセント未満であることを確認せずに、x を落とす。
- 純粋な固体や液体を表や式に含める。
- 問題が逆向きに書かれているのに、正反応の K を使う。反応を逆にすると K は逆数になります。
制限事項と適切な利用方法
- ここで使った平衡定数は、それぞれに示した温度でのみ適用されます。温度を変えると K は変わります。
- 計算では活量の代わりに濃度と分圧を使っており、これが信頼できるのは、希薄溶液と、理想的なふるまいに近い気体の場合だけです。
- 5パーセントの規則は授業でよく使われる約束事で、決まった法則ではありません。別のしきい値を使う授業もあります。
- 三次以上の方程式や、いくつもの平衡が同時に成り立つ問題には数値的な方法が必要で、ここでは扱いません。