系と外界の境界を引く
エネルギーの計算はどれも、系の選択から始まります。通常は反応する化学物質です。それ以外のすべてが外界で、熱量計では、主に水または溶液と容器を意味します。エネルギーは、熱 q または仕事 w として境界を越えることができ、系の内部エネルギーの変化は ΔU = q + w です。
エンタルピー H = U + PV は、仕事が膨張の仕事だけのとき、その変化が定圧でやり取りされた熱に等しくなるように定義されています。ΔH = q_p。実験台での化学のほとんどは、ほぼ一定の大気圧で起こるので、化学者は内部エネルギーではなくエンタルピーを表にします。
熱とエンタルピーの符号の慣例
符号は常に系の立場から書きます。系に流れ込む熱は正、流れ出る熱は負です。発熱反応は外界に熱を放出するので、ΔH は負で、外界は温まります。吸熱反応は熱を吸収するので、ΔH は正で、外界は冷えます。
熱量計で測るのは、反応ではなく外界です。水が温まったなら、水は熱を得たのであり、反応はちょうどその分だけ失いました。これが熱量測定の中心となる関係を与えます。q_reaction = −q_surroundings。
熱容量と式 q = mcΔT
物質の温度を変えるのに必要な熱は q = mcΔT です。m は質量、c は比熱(1グラムを1度温めるのに必要な熱)、ΔT = T_final − T_initial です。摂氏1度の変化は1ケルビンの変化に等しいので、ΔT はどちらの尺度でも同じ値になります。以下で使う比熱は OpenStax Chemistry 2e の表5.1から取ったもので、25 °C 付近で測定されています。液体の水では c = 4.184 J/(g·°C) です。
例題1。310.0 g のケイ素のブロックを 24.5 °C から 160.0 °C に上げる熱はいくらでしょうか。ケイ素の比熱は 0.712 J/(g·°C) です。ΔT = 160.0 − 24.5 = 135.5 °C。q = (310.0 g)(0.712 J/(g·°C))(135.5 °C) = 2.99 × 10⁴ J、すなわち 29.9 kJ です。比熱の有効数字は3桁なので、答えも3桁です。
例題2。88.0 °C の鉛のブロック 450.0 g を、発泡スチロールのカップに入った 20.5 °C の水 60.0 g に入れます。鉛の比熱は 0.130 J/(g·°C) で、水の比熱は上に示した値です。鉛が失った熱は水が得た熱に等しいので、q_lead + q_water = 0 です。(58.5 J/°C)(T_f − 88.0) + (251.0 J/°C)(T_f − 20.5) = 0。各係数は質量と比熱の積です。解くと、T_f = (58.5 × 88.0 + 251.0 × 20.5)/(58.5 + 251.0) = 33.3 °C です。確認:水が得る熱は約 251.0 × 12.8 ≈ 3.2 kJ、鉛が失う熱は約 58.5 × 54.7 ≈ 3.2 kJ です。水の熱容量は4倍以上大きいので、水の温度変化は鉛よりはるかに小さくなります。
定圧でのコーヒーカップ熱量測定
コーヒーカップ熱量計は、空気に開放された断熱カップなので、過程は定圧で起こり、測定した熱は ΔH を直接与えます。希薄な水溶液では、溶液が水の密度と比熱をもち、カップが吸収する熱は無視できるというのが、通常の仮定です。
例題3。21.42 °C の 0.800 mol/L の硝酸 60.0 mL を、同じ温度の 0.800 mol/L の水酸化カリウム 60.0 mL と混ぜます。混合物は 26.75 °C に達します。生成する水1モルあたりの ΔH を求めます。溶液の質量:120.0 mL × 1.00 g/mL = 120. g。ΔT = 26.75 − 21.42 = 5.33 °C。q_solution = (120. g)(4.184 J/(g·°C))(5.33 °C) = 2.68 × 10³ J。したがって q_reaction = −2.68 × 10³ J です。
生成する水の物質量:各溶液は 0.0600 L × 0.800 mol/L = 0.0480 mol を供給し、反応 H⁺(aq) + OH⁻(aq) → H₂O(l) は 1:1 なので、水は 0.0480 mol 生成します。ΔH = −2.68 kJ / 0.0480 mol = −55.8 kJ/mol。確認として、OpenStax の付録Gの標準生成エンタルピーから、同じ正味の反応について −285.83 − (−230.0) = −55.8 kJ/mol が得られます。慣例により H⁺(aq) の ΔH°f はゼロとします。
ボンベ熱量測定と、ΔU と ΔH の違い
燃焼は、水槽に入った密閉した鋼鉄製の容器であるボンベ熱量計で測定します。体積が固定されているので、膨張の仕事はされず、測定した熱は ΔH ではなく ΔU です。装置全体を1つのものとして校正し、kJ/°C 単位の熱量計定数 C_cal を得るので、q = C_cal × ΔT となり、質量や比熱を別に扱う必要はありません。
例題4。C_cal = 10.25 kJ/°C の熱量計で液体のベンゼン C₆H₆ 0.5000 g を燃焼させると、温度が 2.038 °C 上がります。小数第2位に丸めた IUPAC の標準原子量(C 12.01、H 1.01)を使うと、M = 78.12 g/mol なので、n = 0.5000 g / 78.12 g/mol = 0.006400 mol です。q_cal = (10.25 kJ/°C)(2.038 °C) = 20.89 kJ なので、ΔU = −20.89 kJ / 0.006400 mol = −3264 kJ/mol で、測定値がすべて4桁なので有効数字は4桁です。
エンタルピーに換算するには、ΔH = ΔU + Δn_gas RT を使います。C₆H₆(l) + 15/2 O₂(g) → 6 CO₂(g) + 3 H₂O(l) では、気体のモル数が 7.5 から 6 に減るので、Δn_gas = −1.5 で、補正は (−1.5)(8.314 J/(mol·K))(298.15 K) = −3.72 kJ/mol です。ΔH = −3264 − 3.72 = −3268 kJ/mol で、付録Gの生成エンタルピーから得られる −3267.7 kJ/mol と一致します。この補正は、反応が多くのモルの気体を生成または消費するほど大きくなります。
熱化学方程式の読み方と係数倍
熱化学方程式は、書かれたとおりの反応に ΔH を結びつけます。係数を2倍にすれば ΔH も2倍になり、反応を逆にすれば符号が反転します。物理的な状態も重要です。凝縮そのものが発熱なので、液体の水が生成するときは、水蒸気が生成するときより多くの熱が放出されます。
ある量の物質に対する熱を求めるには、モルに換算し、反応1モルあたりの ΔH を換算係数として使います。ベンゼン1モルあたり ΔH = −3267.7 kJ のベンゼン 12.5 g を燃焼させると、(12.5 g / 78.12 g/mol) × 3267.7 kJ/mol = 523 kJ が放出されます。この反応については q = −523 kJ、または 523 kJ の熱が放出されたと書きます。
符号を逆にしたり熱を失ったりする熱量測定の間違い
熱量測定の計算は短いので、誤りの大半は概念上のものです。
信頼できる最後の確認は物理的なものです。水が温まったなら、反応の ΔH は負でなければなりません。
- マイナス符号の欠落:外界の温度が上がったので、q_reaction は負です。水が温まった中和反応に +55.8 kJ/mol と報告するのは、符号の誤りです。
- 質量の誤り:溶液の熱量測定では、溶質だけや、混ぜた2つの体積の一方ではなく、溶液全体の質量を使います。
- グラムあたりとモルあたりの混同:kJ/mol を得るには、指定した化学種のモル数で割り、どの化学種かを明記します。
- ジュールとキロジュールの混同:mcΔT から得られる q の単位はジュールです。kJ/mol の答えで割る前に換算します。
- ボンベのデータを ΔH として扱う:密閉したボンベが与えるのは ΔU です。ΔH が必要なときは、Δn_gas RT の補正を適用します。
制限事項と適切な利用方法
- 例題は、完全に断熱された熱量計を仮定しています。実際の熱量計は室内とある程度の熱をやり取りするので、校正や熱損失の補正が必要です。
- 溶液が純水の密度と比熱をもつとみなすのは近似であり、溶液が濃くなるほど精度が下がります。
- 反応が自発的かどうかを決めるエントロピーとギブズエネルギーは、このガイドの範囲外です。