ガルバニ電池の内部:アノード、カソード、塩橋
ガルバニ電池(ボルタ電池)は、自発的な酸化還元反応を電気的な仕事に変えます。典型的な亜鉛–銅電池では、亜鉛板が Zn²⁺ の溶液に、銅板が Cu²⁺ の溶液に浸されています。亜鉛は酸化され(Zn → Zn²⁺ + 2e⁻)、電子は導線を通って銅板へ移動し、そこで Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu となります。
酸化はつねにアノードで、還元はカソードで起こります。ガルバニ電池では、アノードは電子を導線に送り出すので負極です。塩橋は、多くの場合 KNO₃ 溶液で満たされており、二つのビーカーの間でイオンが移動できるようにして、どちらにも正味の電荷がたまらないようにします。塩橋がなければ、電流はほぼすぐに止まります。
電池式では、アノードを左に、カソードを右に書きます。Zn(s) | Zn²⁺(aq) || Cu²⁺(aq) | Cu(s)。1本線は相の境界を、2本線は塩橋を表します。半反応に固体の金属がない場合は、白金のような不活性電極を外側の端に書きます。
標準還元電位の表を読む
各半反応には、ちょうど 0 V と定めた標準水素電極を基準に測定した標準還元電位 E° が与えられます。標準状態は、溶けている化学種が 1 M、気体が 1 bar で、ほとんどの表では 25 °C です。表の項目はすべて還元として書かれています。
E° が正に大きいほど、酸化形が電子を強く引きつけます。付録Lで +2.866 V の F₂ は、よく知られる中で最も強い酸化剤です。−3.04 V の Li⁺ は最も還元されにくいイオンなので、リチウム金属は非常に強い還元剤です。以下では付録Lの次の値を使います。Ag⁺/Ag +0.7996 V、Cu²⁺/Cu +0.337 V、Ni²⁺/Ni −0.257 V、Zn²⁺/Zn −0.7618 V。
例題:亜鉛–銅電池の E°cell
E°cell = E°カソード − E°アノード を使い、どちらの値も還元電位の表に書かれたまま使います。銅のほうが E° が正に大きいので、銅が還元され、カソードになります。E°cell = +0.337 V − (−0.7618 V) = +1.099 V で、0.337 が小数第3位までなので、小数第3位まで報告します。
E°cell が正なら、その反応は書かれたとおりの向きに、標準状態で自発的に進みます。電極を逆に選ぶと −1.099 V になります。これは、逆反応のほうが自発的であることを示しています。
同じ判定は、どの酸化還元の組にも使えます。Fe³⁺ は I⁻ を I₂ に酸化するでしょうか。+0.771 V の Fe³⁺/Fe²⁺ をカソード、+0.5355 V の I₂/I⁻ をアノードとすると、E°cell = +0.236 V なので、酸化します。Zn²⁺ は銅金属を酸化するでしょうか。E°cell = −0.7618 − 0.337 = −1.099 V なので、酸化しません。
例題:E° に係数をかけてはいけない理由
Ni(s) + 2 Ag⁺(aq) → Ni²⁺(aq) + 2 Ag(s) を考えます。電子を釣り合わせるには、銀の半反応を2倍しなければなりません。その E° も2倍したくなりますが、それは誤りです。E° は示強性の量で、電荷1単位あたりのエネルギーを表し、反応の量を2倍にするとエネルギーと電荷の両方が2倍になります。
したがって E°cell = +0.7996 V − (−0.257 V) = +1.057 V で、係数2はかかりません。反応の量は、別のところで、移動する電子の物質量 n を通じて入ってきます。ここでは n は2です。
E°cell を ΔG° と K に結びつける
電池がなしうる最大の電気的仕事は −ΔG に等しく、そこから ΔG° = −nFE°cell が得られます。ここで F はファラデー定数で、電子1モルあたり 96,485 C です。1ボルトかける1クーロンは1ジュールです。したがって、E° が正なら ΔG° は負で、どちらも標準状態でその反応が自発的であることを意味します。
ΔG° = −RT ln K なので、電池電位は平衡定数も決めます。25 °C では log K = nE°cell / 0.0592 V となります。ここで 0.0592 V は 298.15 K での 2.303RT/F を、OpenStax と同様に有効数字3桁に丸めたものです。
例題。上のニッケル–銀の反応では、n = 2、E°cell = 1.057 V です。ΔG° = −2 × 96,485 C/mol × 1.057 V = −2.04 × 10⁵ J、すなわち書かれた反応1モルあたり −204 kJ です。log K = 2 × 1.057 / 0.0592 = 35.7 なので、K は約 5 × 10³⁵ です。反応は実質的に完全に進みます。K は有効数字1桁として扱ってください。E° が 0.001 V 変わると、log K は約 0.03 動きます。
標準でない濃度のためのネルンストの式
実際の電池が 1 M で動くことはまれです。ネルンストの式は電位を補正します。25 °C では E = E° − (0.0592 V / n) log Q で、Q は反応商です。K と同じように、固体は Q から除きます。
例題。ある亜鉛–銅電池は [Zn²⁺] = 1.00 M、[Cu²⁺] = 1.0 × 10⁻³ M です。Zn + Cu²⁺ → Zn²⁺ + Cu について、Q = [Zn²⁺]/[Cu²⁺] = 1.0 × 10³、n = 2 です。E = 1.099 − (0.0592/2) × 3.00 = 1.099 − 0.089 = 1.010 V。ルシャトリエの原理が予測するとおり、カソードの Cu²⁺ が不足すると電圧は下がります。
濃淡電池は両側に同じ半反応をもつので E° = 0 で、濃度が異なるためだけに動作します。0.0010 M と 1.0 M の Cu²⁺ に浸した銅電極では、E = −(0.0592/2) log(0.0010/1.0) = +0.089 V です。薄い側がアノードです。そこでの酸化によって Cu²⁺ が増え、差がならされるからです。E がゼロに達すると Q は K に等しくなり、電池は働かなくなります。
電気分解とファラデーの法則
電解槽は、外部の電源を使って、金属のめっきや水の分解のような非自発的な反応を進めます。酸化が起こるのはやはりアノードですが、ここではアノードが正極になります。生成物の量は流れた電荷だけで決まります。電荷 Q = 電流 I × 時間 t、電子の物質量 = Q / F です。
例題。2.50 A の電流を CuSO₄ 溶液に 30.0 min 流します。Q = 2.50 A × 1800 s = 4500 C。電子の物質量 = 4500 / 96,485 = 0.0466 mol。Cu²⁺ 1個あたり電子が2個必要なので、0.0233 mol の Cu が析出し、63.55 g/mol では 1.48 g になります。
計算を逆にたどれば時間を求められます。銀 1.00 g をめっきする(Ag⁺ + e⁻ → Ag)には、1.00 / 107.87 = 0.00927 mol の電子、すなわち 894 C が必要です。0.500 A では 1789 s、約29.8分かかります。
電池の問題での符号と帳簿づけの誤り
電気化学の誤りの大半は符号の誤りです。各半反応を書き、酸化か還元かのラベルをつけ、そのあとで初めて計算を行いましょう。
- アノードの電位の符号を反転させたうえで、さらにそれを引き、反転を2回数える。
- 電子を釣り合わせるために使った係数を E° にかける。
- どちらの電極が正極かを取り違える。ガルバニ電池ではカソードが正極ですが、電解槽ではアノードが正極です。
- ΔG° = −nFE° やネルンストの式で間違った n を使う。n は、係数を合わせた全体の反応で移動する電子の物質量です。
- 答えをキロジュールで求められているのに ΔG° をジュールのままにする、またはその逆。
- ネルンストの式で Q を上下逆に書く。どの反応商でもそうであるように、生成物を分子に置きます。
- Q = It で秒ではなく分を使う。
制限事項と適切な利用方法
- すべての E° の値と 0.0592 V という係数は、25 °C で適用されます。ほかの温度では、RT/F を含む完全な形のネルンストの式が必要です。
- 計算では活量の代わりに濃度を使っているので、濃厚溶液について予測した電圧は数十ミリボルトずれることがあります。
- E°cell が正であることは、反応が熱力学的に有利であることを示すもので、速いことを示すものではありません。過電圧と遅い電極反応の速度論は、ここでは扱いません。
- 実際の電池は内部抵抗によってエネルギーを失うので、負荷のかかった電池は計算より低い電圧しか供給せず、電解槽には計算より高い電圧が必要です。