溶解度積の式を書く
わずかに溶けるイオン性の固体がその飽和溶液と接しているとき、溶解と沈殿は等しい速さで起こります。フッ化カルシウムでは CaF₂(s) ⇌ Ca²⁺(aq) + 2 F⁻(aq) で、平衡定数は Ksp = [Ca²⁺][F⁻]² です。固体は純粋な相なので式から除きます。
各イオンの濃度は、溶解の反応式での係数乗にします。クロム酸銀では Ag₂CrO₄(s) ⇌ 2 Ag⁺(aq) + CrO₄²⁻(aq) で、Ksp = [Ag⁺]²[CrO₄²⁻] です。ヨウ化鉛(II)では Ksp = [Pb²⁺][I⁻]² です。
モル溶解度 s は、飽和溶液1リットルあたりに溶ける固体の物質量です。溶解の化学量論によって Ksp と関係づけられるので、Ksp と溶解度は同じ数ではなく、化学式の型が異なる塩どうしで直接比べることはできません。
Ksp からモル溶解度へ
例題1。付録Jによると、塩化銀の Ksp は 1.6 × 10⁻¹⁰ です。s mol/L が溶けるとすると、[Ag⁺] = [Cl⁻] = s なので Ksp = s² です。すると s = √(1.6 × 10⁻¹⁰) = 1.3 × 10⁻⁵ M です。M(AgCl) = 143.32 g/mol を使うと、1リットルあたり 1.8 × 10⁻³ g、つまり2ミリグラムほどです。
例題2。フッ化カルシウムの Ksp は 4.0 × 10⁻¹¹ です。s mol/L が溶けるとすると、[Ca²⁺] = s、[F⁻] = 2s なので、Ksp = s(2s)² = 4s³ です。すると s = (4.0 × 10⁻¹¹ / 4) の 1/3 乗 = 2.2 × 10⁻⁴ M です。
二つを比べます。AgCl のほうが Ksp は大きいのに、1リットルあたりのモル数で見ると CaF₂ のほうが約17倍よく溶けます。指数によって Ksp と溶解度の対応が変わるので、Ksp で溶解度を順位づけできるのは、イオンの比が同じ塩どうしだけです。
- AgCl や CaCO₃ のような 1:1 の塩:Ksp = s²。
- CaF₂、PbI₂、Ag₂CrO₄ のような 1:2 または 2:1 の塩:Ksp = 4s³。
- Al(OH)₃ のような 1:3 の塩:Ksp = 27s⁴。
測定した溶解度から Ksp へ逆算する
計算は逆向きにもできます。25 °C でのヨウ化鉛(II)の飽和溶液が、1リットルあたり 0.70 g の PbI₂ を溶かして含むことがわかったとします。M(PbI₂) = 461.0 g/mol を使うと、s = 0.70 / 461.0 = 1.52 × 10⁻³ M です。
PbI₂ が1個溶けるごとに Pb²⁺ が1個と I⁻ が2個生じるので、[Pb²⁺] = 1.52 × 10⁻³ M、[I⁻] = 3.04 × 10⁻³ M です。すると Ksp = (1.52 × 10⁻³)(3.04 × 10⁻³)² = 1.4 × 10⁻⁸ で、付録Jの値と一致します。ここでは二つのうっかりミスがよく起こります。[I⁻] の係数2を忘れると、Ksp は4倍小さくなりすぎます。[I⁻] を2乗し忘れると、s の累乗がまったく違ってしまいます。
共通イオンを加えると溶解度が抑えられる
溶液がすでに塩のイオンの一つを含んでいると、ルシャトリエの原理によって、溶解平衡は固体の側へ押し戻されます。これが共通イオン効果です。
例題。0.10 M の NaCl 中での AgCl の溶解度を求めます。このとき [Cl⁻] = 0.10 + s で、s は 0.10 に比べてごく小さいので、[Cl⁻] ≈ 0.10 M です。すると s = Ksp / [Cl⁻] = 1.6 × 10⁻¹⁰ / 0.10 = 1.6 × 10⁻⁹ M です。これは純水中のおよそ8,000分の1で、s は 0.10 に比べて明らかに無視できるので、近似は成り立ちます。
0.010 M の NaF 中の CaF₂ では、[F⁻] ≈ 0.010 M で、s = 4.0 × 10⁻¹¹ / (0.010)² = 4.0 × 10⁻⁷ M となり、純水中の約540分の1です。ここでも、Ksp の式と同じように、フッ化物イオンの濃度を2乗するのを忘れないでください。
沈殿するか? Q と Ksp を比べる
二つの溶液を混ぜたときに固体ができるかどうかを予測するには、混合後の濃度からイオン積 Q を計算し、Ksp と比べます。Q が Ksp より大きければ、溶液は過飽和で、沈殿が生じます。Q が Ksp 以下なら、固体はできません。
例題。0.0010 M の Pb(NO₃)₂ 50.0 mL と 0.0020 M の KI 50.0 mL を混ぜます。混ぜると体積が2倍になるので、各濃度は半分になります。[Pb²⁺] = 5.0 × 10⁻⁴ M、[I⁻] = 1.0 × 10⁻³ M。Q = (5.0 × 10⁻⁴)(1.0 × 10⁻³)² = 5.0 × 10⁻¹⁰。これは Ksp = 1.4 × 10⁻⁸ より小さいので、PbI₂ は沈殿しません。
0.020 M の KI で繰り返します。混合後は [I⁻] = 1.0 × 10⁻² M で、Q = (5.0 × 10⁻⁴)(1.0 × 10⁻²)² = 5.0 × 10⁻⁸ です。これは Ksp を超えるので、黄色の PbI₂ が生じます。これらの問題で最も多い誤りは、混合による希釈を忘れることです。
選択的沈殿:Ksp によってイオンを分ける
二つのイオンがどちらも同じ試薬と沈殿をつくりうるとき、その塩がより低い試薬濃度で沈殿するほうが先に沈殿します。試薬をゆっくり加えれば、両者を分けられます。
例題。ある溶液は Cl⁻ と CrO₄²⁻ をどちらも 0.010 M 含み、そこに Ag⁺ をゆっくり加えます。AgCl は [Ag⁺] = 1.6 × 10⁻¹⁰ / 0.010 = 1.6 × 10⁻⁸ M で生じ始めます。付録Jで Ksp = 9.0 × 10⁻¹² の Ag₂CrO₄ は、[Ag⁺]² × 0.010 = 9.0 × 10⁻¹² のとき、つまり [Ag⁺] = 3.0 × 10⁻⁵ M で生じ始めます。AgCl が先に沈殿します。
赤い Ag₂CrO₄ が現れるころには、[Cl⁻] は 1.6 × 10⁻¹⁰ / 3.0 × 10⁻⁵ = 5.3 × 10⁻⁶ M まで下がっているので、溶液中に残っている塩化物イオンは約 0.05 パーセントにすぎません。このはっきりした色の変化が、塩化物イオンを定量するモール法の基礎です。
酸の中でよく溶ける塩があるのはなぜか
塩の陰イオンが OH⁻、CO₃²⁻、F⁻ のような塩基であれば、酸を加えるとその陰イオンが溶液から取り除かれ、溶解が正の向きに引き寄せられます。水酸化物や炭酸塩は、低いpHでははるかによく溶けます。AgCl のように強酸の陰イオンからなる塩は、このような影響を受けません。
例題。水酸化マグネシウムの Ksp は 8.9 × 10⁻¹² です。純水中では Ksp = 4s³ から s = 1.3 × 10⁻⁴ M、[OH⁻] = 2.6 × 10⁻⁴ M なので、飽和溶液の pH は 10.42 です。代わりに緩衝液でpHを 9.00 に保つと、[OH⁻] = 1.0 × 10⁻⁵ M で、s = 8.9 × 10⁻¹² / (1.0 × 10⁻⁵)² = 0.089 M となり、ほぼ700倍になります。これは、緩衝液が放出される水酸化物イオンを吸収できるだけの緩衝能をもつと仮定しています。
提出前に確認したい Ksp の誤り
誤りの大半は、平衡の考え方そのものではなく、溶解の化学量論から生じます。溶解の反応式を書き、その下に s の項を書き出せば、ほとんどに気づけます。
- 三つ以上のイオンを放出する塩で、Ksp を s² に等しいとする。
- イオンの濃度を2倍にしたのに式の中で2乗しない、またはその逆。
- イオンの比が異なる塩どうしで、Ksp によって溶解度を順位づけする。
- 混合後の Q を計算するときに、両方の溶液の希釈を忘れる。
- すでに存在する共通イオンを無視する。
- Ksp の式に固体を含める。
制限事項と適切な利用方法
- Ksp の値は 25 °C で適用され、溶解度は温度によって変わります。また、同じ塩でも表によって報告される値が異なり、数倍違うこともあります。
- これらの計算は、溶けた塩が自由なイオンとしてのみ存在すると仮定しています。イオン対の形成、錯イオンの生成、加水分解によって、実際の溶解度は予測より大きくなることがあります。
- 活量の代わりに濃度を使っているので、イオン強度の高い溶液では溶解度を過小評価します。
- 単純な Ksp の計算では、沈殿がどれだけ速くできるかや、過飽和溶液がそのまま保たれるかどうかは説明できません。